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おとめ妖怪ざくろを見ていたら、最初やまえどが思い浮かんだのですが、
結局いつもの方向にシフトしてしまいました。
えっと、
式使いの人間;東海道本線
式神(幼い狐);京浜東北線
山崎のパラレル趣味よどこへ行く
*
その場所はとても穏やかに昼と夜が過ぎていき、腹が減ることもなければ体が辛くなることもない楽園だった。すくなくともあのひとに呼ばれて、煤と煙にまみれた帝都に一歩を踏み出すよりもよほど、あの場所の方がなにをしていても楽しかった。
幼かったのだ。
その場所にたまに訪れる脅威は、突然空が紫色や灰色に歪んで、手が伸びてきたり、糸のようなものが絡みついたり、さまざまな形でその場所にいる仲間をさらっていくことだけだった。まだ幼い僕にはその現象の意味がわからなかった。ただ、空が割れる日には、僕よりもずっと長生きをしている狐や狸がすこし辛そうな顔をして、いなくなってしまう誰かをゆっくりと見送る、そのことだけを知っていた。
行く先がどこだったのかはわからない。僕は外の世界に出ることだけが怖かった。狐や狸は、外の世界について、何も教えてくれなかった。口のきけない赤いだるまや陶器の牛も、僕がその空の割れ目を見ていても、いつも通りだった。僕が知っていたのはその場所がとても居心地が良いと言うことだけだった。
その日、僕は赤いだるまと陶器の牛と追いかけっこをしていた。まだ背丈は小さくて、そう、迎えに来た男の、腰くらいに頭がぶつかるくらい、それくらいの小ささだった。
普段、とても異質な色に割れる空が、その日、とても自然に開いた。僕は、空の色と草原の色を知っていた。それから、森の色、湖の色、その場所にあった沢山のものの色を知っていた。
けれども、彼がすっと立ち入ってきた、その向こうの色を知らなかった。彼からは知らない香りがした。何かがくすぶるような匂いと、それと対照的にすこし不愉快さを残しながらも雄大な匂い。煙や灰、油の匂いと、それから海の匂いを知ったのは、すぐあとのことだった。
仲間達はとても強引に身を奪われていったから、その場所の向こう側はとても怖い場所なのだろうと僕は思っていた。その点ではいまでも同じことを思っているが、迎えに来た彼は、とても静かで、厳かで、まるで悪戯をした誰かを叱る狐のような、それよりもずっと鋭いものを僕は感じた。
彼は僕の目の前で、僕をじっと見ていた。赤いだるまと陶器の牛は僕の後ろで、僕を見守っているような気がした。彼の背負っていた空の割れ目の向こうで、狐と狸がいつもの言い争いをはっと止めて、こちらを見ているのが見えたような気がした。
けれども、その場所の、僕が愛していた空気のなかで、彼は静かに凪いだ。恐怖だけではなかったのだ。僕は、突如現れた、その場所にない生々しい匂いを背負った目の前の存在に、息をのんだ。
「おいで」
彼の声を聞いた。
そのときの僕よりもずっと背の高かった彼はそう言って、膝を折って僕に目線を合わせた。差し出された手はごつごつとしていて、小さくて痛そうな傷がたくさんあった。僕は単純にそれを痛々しく思って、癒すような心持ちでその大きな手を小さな手で包んだ。狐と同じようにすこし尖った爪、いつか大きくなったらお前もわたしと同じような姿になるのだよ、教えてくれた狐は遠くにいて、どんな顔をしていたのだろうか。
ぽん、と重ねた小さな手は無力だったが、彼の手のひらの傷を癒す程度には、その場所で蓄えた力が意味があった。彼は驚いて、それから小さく笑った。
思えば、後にも先にも、彼があんなに幸せそうに笑ったのがすべての原因だったのだ。そうでもなければ、いま、こんな薄汚れた街で彼を思って薄汚い空を見上げることもないはずだった。
「ありがとう」
彼が自分に向けた声が心地良くて、僕は目を閉じてふるふると首を振った。礼を言われるようなことは何もしていなかった。ただ手を乗せただけのことだ。
昔のことだった。帝都から来た彼は、僕の見たことのないような詰め襟の軍服を着ていた。とても、きらきらしていた。彼の背負った空の割れ目の向こうにあった深い青が、僕に飛び込んでおいで、そう言っていた。
いままで、一度も飛び込めたことのない青。
僕は彼の大きな手のひらの指を一つ、両手でつまむように握った。僕がその時伝えられた精一杯の承諾を、彼は、もう一度穏やかに笑って受け止めてくれた。
「来てくれるのか」
その場所を愛していた。外の世界が怖かった。それでも僕は、その人を、一目で守らなければならない、なぜか、そう思ったのだ。
幾度やり直してもきっと変わらないと思う。
遠くで狐と狸が、いつも誰かを見送るような顔をしていた。振り向くことは出来なかったので、その場で赤いだるまと陶器の牛に別れを告げられなかった。僕は言葉を発せなかったので、代わりに握り込んだ手ですっと彼の思考に接続した。
『はい』
それは僕が彼に伝えたはじめの言葉だった。
口が動かなかったのに言葉が伝わったことに、彼はすこしも驚かなかった。いま考えれば、式神が口をきけないことがあるくらい、彼はとっくに知っていたのだ。そう考えると、いろいろ先に知っていた彼の持っている有利さがずるく思える。
けれども、その時の僕は、ただ、ただ彼に手をさしのべられただけで。
「ありがとう」
繰り返された謝辞に、返す言葉を知らなかった。しかも口がきけなかった。彼の背負っていた、そう、あれはきらきらと陽光を反射する海面の青だった。それに心を奪われて、そして彼のまぶしさに目が眩んで、式の使い手と式神の関係という意味も何もわからないまま、ただ彼の手をより強く握ったのだった。
*
やっぱり口がきけなくて接触しないと意思疎通できないは外せないかなって