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2024/11
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まさかの東海道本線と京浜東北の昔の話第二弾。
こんな東海道いままで聞いたことがない。




 京浜,とこの人が呼んでくれるたび,京浜がなにをかんがえているのか恐らく目の前の東海道は気付いているまい。京浜はぼんやりと東海道を見た。二人して書いている書類は,これから京浜が延伸され,というか手助けをすることになる東北本線との関係についてのものだった。
 東海道の手助けをするかたちで用を果たす役割を担う京浜は,はじめにあった設備不良も解消され,いまや少なくとも運輸の面では東海道にとってなくてはならない存在になれたと自負している。個人的な関係云々はさておき。
 万年筆を握りながら眺める東海道の横顔はいつもどおり,いつもどおり京浜が好んでいるりりしいものだった。彼も京浜に関わる書類を扱っている。
 東北本線は双子のような見目をした二人が主な働き手で,京浜はそれなりに彼らと宜しくやらなければならないことをわかっている。子供だったことはないし,わがままを言おうとは思わないし,自分がさらに世間の人々の役に立てることはうれしく思う。
 けれども,と思う。万年筆を進めるべくぼんやり見ていた東海道から目線を外す。そんな目的は嘘だ,もちろん書類を進めなくてはならないことくらいわかっているけれども,東海道を見るのが,いま,辛いのだ。
 京浜は世間に役に立つ存在になってからこのかた,東海道と,自分と同じくそれを手助けする山手とが主な仕事相手だった。そのうち京浜になんでもかんでも教えてくれたのはやはり東海道だった。山手は自分よりだいぶ先に開業していたが,仕事をする区画が違うので仕事の話をすることは少なかった。
 その上,京浜の意識がはるかに東海道に占められているものだから,結局京浜がいま考えていることはこれからどうするのかだった。どうするのかといえば逃げ場などないし自分はもちろん運輸に貢献するつもりしかないし,問題はそこではなくつまりこれから東海道に対してとれる接触が確実に減ると言うことだった。
 そして,そのことを問題視していることだ。
「京浜」
 ふと東海道に呼ばれ,考え事を遮られた。
「はい」
 反射的に顔を上げると,いつもの黒い着物の東海道が京浜を見ていた。あまり笑いはしない東海道だけれども,それはたぶん表情を動かすのが器用ではないだけだ,と京浜は気づいている。先輩を相手にそんなことを言いはしないけれど,本当は笑ったり,喜んだり,そういう東海道の表情を見るのが好きだ。
「左手」
「あ」
 東海道の単語を京浜は理解した。悪癖だ。京浜は気づいたときには左利きだったで,東海道の後輩になるに当たって彼にきつく矯正されたのだ。けれども油断しているとこういうことがある。よりにもよって東海道に見とれているときだったから,京浜は手を持ち替えてから,ぺこり,頭を下げる。
「すいません……」
「いや,いいんだけどな」
 東海道は立ち上がり,京浜の机の前に立つと徐にくしゃりと髪を撫でた。
「東北の連中に,左利きだからと馬鹿にされたらいけないだろう」
「はい」
「ただでさえお前をあいつらに貸すのは癪なのに」
「え」
 東海道がするっと言い放ったことを京浜は目を見開いて聞いた。驚いたのは二つあって,貸す,という言葉と,癪,という言葉。
 京浜が驚いた顔をしたから東海道も驚いたようだった。
「どうかしたか?」
「いえ,東海道さんがそんな風に思っておいでなのを僕知らなくて」
「そんな風?」
「僕は東海道さんのお役に立てているんだと思って」
 本当は大切にされている,とでも言いたかったけれども,それはうぬぼれのようでいやだったので言葉を変えた。東海道が京浜を「貸す」といってもそれはあくまで架線の話だっただろうし,「癪」なのだって東海道と東北本線の折り合いが悪いからだろう。
 それでも,東海道が京浜を東北本線に送ることにひっかかりを覚えてくれているだけで,京浜は心が穏やかに,しかし高揚するのを覚えた。
「僕,東海道さんのものですから,東海道さんのお顔に泥を塗るようなまねはしないようにしますから,左手ももう使いません,大丈夫です」
 口にしたことをたぶん東海道は大げさだと思って聞いているのだろう。大げさにでも言わなければ京浜の思うことに気づいてくれない東海道に,不安を覚えてこんな言い方をしている京浜の意図になど気づいてはくれないだろう。
 それでも東海道が京浜を手放さないでいてくれたら。
「東北本線に,何かされたら,言うんだぞ」
「……はい」
 何かされたら,なんて言葉を自分が言われるとは思わなかった京浜は,やはり驚いて目を見開いた。そんな言葉が適切なのはご婦人か子供だと思っていたものだから,東海道がそのどちらにいう意図でそれを口にしたのか知りたかった。
「お前は東北線にもなるが,あくまで俺の京浜線だからな」
 もしその言葉を都合良く解釈しても良いならば,京浜線という言葉が指すのはつまり東海道の一部としての性質だった。それが仕事の上だけでなく個人的な関係に及ぶのかと,それを信じて良いのかと,結局京浜は聞けなかった。

***


こんな独占欲の強い東海道本線聞いたことがない。
たぶん大正時代の東海道は「思春期」だと思う。大正時代という背景がそうさせるのだろうと思う。趣味全開ですいません。

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