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大正時代
東海道本線×京浜東北
第五弾
もう何も言い訳しません。
「わたしの空は君の色」(前回の大正もの)から続いている気がします。
今更ですが、パソコンからの閲覧の場合、
パラレルSSSは左のカテゴリーをぽちっとたたくと
パラレルSSSのような何か っていうカテゴリーがあって
そこにまとめて放り込んであります……。
携帯の方はすみません、よくわからないんです……
*
立ち話と言ったのは本当らしくて、東海道が用事のあるらしい役人は封筒を持って役所の待合に座っていた。東海道は顔見知りの相手らしく、ぺこり、と会釈をする。愛想のない役人は歩み寄ってきて、いくつかの話を始めた。そうなってしまえば京浜に出る幕はないので、すっと後ろに控えることにした。
ただその封筒の表に、筆で自分の路線の名前が書いてあった。ということは自分の話なのだ、と京浜は理解した。東海道と東北本線は折り合いが良くない。けれども京浜はその折り合いの良くない相手まで、いま東海道を手伝っているように、手伝いに行くのだと、もう決まっていることだ。わかったことなのだ。
自分の話題なのにいまひとつこうして他人事のように思うのは、まだ計画段階で、まだ東海道以外の手伝いをすることに実感がないのだと思う。もしそのときがきたら、自分がどう思うかは京浜には想像がつかなかった。
今の京浜に見ることの出来るのは、東海道の濡れた後ろ姿だけだった。役所に向かう彼をホームで見送ったあと、ぼんやりと空を仰いでから、ああ、降る。と思った。京浜の天候に関する勘は何故か良く当たった。東海道はそれを、お前の目は空を閉じ込めているからではないか、と言った。
どうせ何も知らないだろうに。
けれどもそうやって、少しでも東海道のために何かをするためならば京浜は一刻も早く動かなければならないと思っているし、そこに自分の浅はかな思惑を滑り込ませることは得意だった。たぶん東海道がそれほど敏感でないからできる芸当だと思う。
傘を一本しか持っていかなかったのだって、彼に連れ出されたいからだと、彼は気づかないだろう。
雨に濡れた着物が肩に吸い付いていた。自分のも、彼のも。東海道の黒い着物は余計にその肩の稜線を強調した。京浜は肩がなだらかだから、余計にその彼の幅のある肩を逞しいものだと思った。その下の筋肉を京浜は思い浮かべた。この国の鉄道の始祖として、誰よりも京浜が憧れるその姿を考えるのは京浜にとって楽しかった。
縋りたいと思う。かみつきたいと思う。その背中がくるりと振り向いて、自分を抱きしめてくれたらいいと思う。その感情がどうしようもないところにしか人の生き方を向かわせないものだと言うことを京浜は知っている。
誰よりも、身をもって。
濡れた肩が冷たかった。東海道には輝かしい未来があって、ずっと遠くまで彼を待っている人がいる。京浜には計り知れないほどの遠く。その傍に近寄ろうとすることが、それ自体が滑稽だ、だって、自分は彼の手助けをする存在。
役人がぺこりと頭を下げて、ふと話が終わったのだと気づいた。京浜は静かに待った。彼は何かを短く役人に告げると、振り向いた。その瞬間、京浜を探してくれる目線だけで、京浜は幸せになれると、たぶん彼は分かっていないし知らないだろう。
「待たせたか」
「いいえ東海道さん、もう宜しいのですか」
「ああ」
歩み寄ってくる彼の肩を直視する事なんて出来ない。その体に触れることも想像できない。だから京浜はいっそ開き直って、少し焦げ茶がかった彼の瞳を見た。
「戻るか」
「はい」
建物を出て、京浜が持っていた傘をやはり東海道は取り上げた。
何も知らないくせに。
「持ちます」
「構うな」
「……はい」
そんな言葉にさえ喜ぶ自分と、身を寄せ合う狭い傘の中で濡れた肩が触れあって、そうするとさきほど彼の後ろ姿に寄せた思いがぶり返し、ひとり地面をたたく雨をぼんやり眺めながら歩いた。
ただその封筒の表に、筆で自分の路線の名前が書いてあった。ということは自分の話なのだ、と京浜は理解した。東海道と東北本線は折り合いが良くない。けれども京浜はその折り合いの良くない相手まで、いま東海道を手伝っているように、手伝いに行くのだと、もう決まっていることだ。わかったことなのだ。
自分の話題なのにいまひとつこうして他人事のように思うのは、まだ計画段階で、まだ東海道以外の手伝いをすることに実感がないのだと思う。もしそのときがきたら、自分がどう思うかは京浜には想像がつかなかった。
今の京浜に見ることの出来るのは、東海道の濡れた後ろ姿だけだった。役所に向かう彼をホームで見送ったあと、ぼんやりと空を仰いでから、ああ、降る。と思った。京浜の天候に関する勘は何故か良く当たった。東海道はそれを、お前の目は空を閉じ込めているからではないか、と言った。
どうせ何も知らないだろうに。
けれどもそうやって、少しでも東海道のために何かをするためならば京浜は一刻も早く動かなければならないと思っているし、そこに自分の浅はかな思惑を滑り込ませることは得意だった。たぶん東海道がそれほど敏感でないからできる芸当だと思う。
傘を一本しか持っていかなかったのだって、彼に連れ出されたいからだと、彼は気づかないだろう。
雨に濡れた着物が肩に吸い付いていた。自分のも、彼のも。東海道の黒い着物は余計にその肩の稜線を強調した。京浜は肩がなだらかだから、余計にその彼の幅のある肩を逞しいものだと思った。その下の筋肉を京浜は思い浮かべた。この国の鉄道の始祖として、誰よりも京浜が憧れるその姿を考えるのは京浜にとって楽しかった。
縋りたいと思う。かみつきたいと思う。その背中がくるりと振り向いて、自分を抱きしめてくれたらいいと思う。その感情がどうしようもないところにしか人の生き方を向かわせないものだと言うことを京浜は知っている。
誰よりも、身をもって。
濡れた肩が冷たかった。東海道には輝かしい未来があって、ずっと遠くまで彼を待っている人がいる。京浜には計り知れないほどの遠く。その傍に近寄ろうとすることが、それ自体が滑稽だ、だって、自分は彼の手助けをする存在。
役人がぺこりと頭を下げて、ふと話が終わったのだと気づいた。京浜は静かに待った。彼は何かを短く役人に告げると、振り向いた。その瞬間、京浜を探してくれる目線だけで、京浜は幸せになれると、たぶん彼は分かっていないし知らないだろう。
「待たせたか」
「いいえ東海道さん、もう宜しいのですか」
「ああ」
歩み寄ってくる彼の肩を直視する事なんて出来ない。その体に触れることも想像できない。だから京浜はいっそ開き直って、少し焦げ茶がかった彼の瞳を見た。
「戻るか」
「はい」
建物を出て、京浜が持っていた傘をやはり東海道は取り上げた。
何も知らないくせに。
「持ちます」
「構うな」
「……はい」
そんな言葉にさえ喜ぶ自分と、身を寄せ合う狭い傘の中で濡れた肩が触れあって、そうするとさきほど彼の後ろ姿に寄せた思いがぶり返し、ひとり地面をたたく雨をぼんやり眺めながら歩いた。
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