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2024/11
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またまた140字SSSログです。ぺっ。

ちなみにシズイザの現状は手持ちの中綴じホッチキスの枚数の限界に挑むような心地です。




夏には一度この屋上で抱き寄せられた。名前を呼ばれて振り返る人にはもう届かない。彼は髪を切った。詰襟の制服は彼の輪郭を上手く隠した。あの熱を未だ夢見ることを、笑顔で隠しきれるだろうか。そこにあるのはあの茹だるような熱の立ち上る夏、めくるめく季節の中に残してきた手探りの夢も溶ける夏。
(東海道京浜、大正本のあと<要はくっつけなかったあと>の昭和国鉄時代)



若し雁字搦めに愛してと言われたらきっと出来る。それは他の誰でもない、少し視野の狭い自分だから。新聞を読んでいたメタルフレームの眼鏡は手元を見るときのもので、彼がどうしてそんなものを持ってこの空間に上がり込んでいるかなんてどうでも良い。振り向かせられるならどうぞ?あなたと違う僕を。
(一次・すみともかんぽ。「僕は銀行ではないですから」が口癖のかんぽ)

宇都宮の笑顔を睨む目に力が入らない。ごめーんと謝る彼を前に、眼鏡を外そうと弦に手を掛けるが、被ったヨーグルトパフェが指に付いて顔をしかめた。と、東海道の手が伸びて、眼鏡を外し白濁塗れの京浜東北の指を舐める。そんな無防備な顔、と言う彼の甘さに、宇都宮より先に馬鹿じゃないのと呟いた。
(某ロイホにて、ヨーグルトパフェを目の前にジェバンニ)

手を取る。薄暗い照明に照らされ、眼鏡を外していて、沢山の古傷は暈けてひとつも確認できない。彼を象徴する節くれ立ったがさつく手。寝ないのか、聞かれて首を振る。明かりを落とす。彼の手を離せない。目を瞑って感触を確かめる。落ち着くか、聞かれて頷くと、彼が耳元で笑う。おやすみ、良い夢を。
(東海道京浜。ねぼけーくん)



振り払う前髪の奥に何の傷もないのを確かめて、不意に安堵した。たとえ最も近しい発着地点を持つ異なる私鉄である彼でも、傷のある様など見たくはない。何かついているか、と聞かれ、不愉快な目鼻が、と答える。色つきの目の奥の真実の色など知らなくて良い。彼のせいで感情を揺らすのなど、耐え難い。
(西池東上? この組み合わせ、かけざんっていうか、たしざんっていうか、わりざん)



色あせた髪は潮風に当たってそうなったと知っている。うかつに触れると毛先はぱきりと折れるから彼は嫌そうな顔をする。だからそっと頭ごとくるむように抱きかかえると彼はうっとりとして目を閉じた。君は僕の喜ぶことをなんだって知ってるんだねぇ、と嬉しそうに呟く声は魔法の国の、姫なのだろうか。
(武蔵野京葉。武蔵野がかっこよすぎて直視できない腹立たしさ)



冷えた体を温める腕を求めたくない。自分が彼を愛することができても、彼からの施しを望んではいけない。わかっているのに、細工の仕事に慣れた無骨なあの手が、血を吸う自分の牙を小さく指で叩く。血よりも欲しい熱を求めれば、彼の温度を奪ってしまうと知りながら、上越はその指先を小さく齧るのだ。
(吸血鬼はやとき。これを見るとやっぱり書きたくなる……)



僕より外の環っかってどうなってるの、と明るい声が尋ねてくる。地下なので外の世界は解りかねますね、と正直に答えると、人形は首を傾げた。知りたいですか、と問えば本体の首がこくりと上下する。では今度、お仕事交代しますかと尋ねると、都営の怠慢だ!と喚き立てる人形を余所に、彼は少し笑った。
(やまえど! 都営さんの路線図参照)



粟立つ体を御しきれない。「オレのこと、好きでしょ?」問いかける目にいつものふざけた色は残っているのに、何故か逃げ場は無い。「なぁ、京葉」その声で呼ぶな、いつもの調子で答えられない問いかけを投げないで。「なぁ」畳みかける声に観念して目を瞑ってしまう。ふ、と笑う音、唇には熱と湿り気。
(武蔵野京葉。いつも武蔵野を性的に書きすぎる)



存在さえ矛盾と捉え逃げ場は見失った。作られた運命から消滅も逃避もできない存在に絶対的な光を与える彼のような存在は、生憎僕は持ち合わせていない、と彼が歪に笑った。不快に空気を裂く音を立てて空を飛ぶ機械が鉄のレールに降りた瞬間を思い出す。何かの代わりになるならと、黒髪を撫でてやった。
(気持ちは陽上。陽→←←←上?)

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