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キャスト
外交官;東北
フリーライター;上越

というかアマルフィの萌えたシーンをキャスティングしてBLに脚色しているだけですが目に見えてBLです。従ってネタバレ的な色彩を含みます。でも映画そのまんまじゃないよ。
らめぇぇぇぇぇぇぇ! な方は閲覧をお控え下さい。すみません……

あとタイトルのフランス語はインフォシーク先生に聞いたけどよくわからないです。言い切りよった

(8/21追記;タイトルを訂正しました。しかし直ったのか分からない)



 長旅に苦労をしたことはない。むしろ一箇所に一週間もとどまれば良い方の自分のような働き手は,一日の半分程度を拘束される可能性のある飛行機など格好の寝床だ。床と言うには随分と高い空を飛んでいる,と思ってから,外交官は深々とため息をついた。
 自分の肩書きで最もメインになるのは外交官としての肩書きだ。ただその裏で,あれやこれやという各方面からの引っ張りだこにうんざりもしている。今回の出張(出張というか,もうどこに籍があるかもよく分からないので,出張という言葉が相応しいかもよく分からないが)だって,初めは外務省,次に内閣府の某局,それから総務省と連絡が来て,結局とどのつまりは警視庁だ。
 まぁ気づけば自分の銀行口座には仕事をしている限り多忙の余りに到底使い切れないほどの金が振り込まれているし,一人でこんな暮らしをしていくのも悪くはない。そのうち腰を据えるところでもあるのだろうか,と思うけれども,少なくともまた今日も飛んでいる。
 空港周りのカフェは,雑多な言語が飛び交っている。自分自身もおおかたの欧州言語は操れるが,本質的には縦書きの日本語が母国語だという感覚を忘れたことはない。最も落ち着くものだから。時と場合によるが,鞄の中に日本の古典を文庫本にアレンジしたものが一冊は入っている,と教えたときの彼の顔を,ふと思い出した。
 入り口に立っている新聞売りの少年に小銭を渡して新聞を買う。明らかに人種の違うボーイに,円形の二人掛けのテーブルに通される。短く,Un café s'il vous plaitと告げる。程なくして出てきた,珈琲なんだかエスプレッソなんだか,いずれにしてもそこそこの香りにこれといった感慨も抱かず,メニューの値段よりも一枚だけ硬貨を余分に渡す。Merci, という単語はやはり自分のものではない。
 しばらく新聞を読みながら珈琲をすする。世界で一番美しい言語,を自負する民族のカフェに混じって黒のコートが浮き足立っている,そんな感覚はとっくに置いてきた。けれど,右の耳にだけつけたシンプルなピアスを揶揄する視線は些か居心地が悪い。この国だと自分のようなのでも気に入られるから理解に苦しむ。
 これをつけた男の意図も未だに読み切れない。実害がないから放置しているし,そろそろ潮時かとこちらが引きかけたときに必ず行動を起こすあの男は直接外交官に迷惑を掛けるわけではない。強いて言うならば外交官のずっと上の方の上司が迷惑を被るだけだ。
 Cafe au lait s'il vous plait,という声が背後で聞こえた。新聞の四分の三は目を通した。流し見ればたぶんこちらを見ているだろう彼に,それでもこちらからアクションを起こすのは気にくわない。黙って新聞を読み続けると,相変わらずだね,と聞き慣れた言語。
 一度スルーすれば,向こうはボーイと少しのやりとりをした。まるで喧噪に紛れて,気のせいだった,と思うようなその展開。それでも,外交官が新聞を読み終えてぱさりとたたむと,うれしそうな声音で話しかけてくる彼に,コートの袖を引っ張られる。
「今度は何だ」
「大きな会議があって,右耳ピアスの我が国の外交官様が動くんだったら,良いネタがあるんでしょう?」
 やむを得ず振り返れば,相変わらず綺麗な顔に可愛くない笑顔。外交官にピアスをあけた張本人は,ピアスか,それか外交官の中に流し込んだ毒にGPSでも仕込んでいるのではないかと言うくらい,嫌な仕事のときほど出先で出会うフリーライターだ。
「遂に俺がここに腰を落ち着けることになった,と言ったら」
「じゃあ僕もここに住むよ」
 肩をすくめてため息を吐くと,フリーライターはいつも通り楽しそうに笑った。カフェの視線は好色めいたものからからかいめいたものにかわる。
「俺に添い遂げるつもりか?」
「それは愉しいね」
 立ち上がろうとしたけれど,見目に似合わない強い力で腕をひかれて立ち上がりそびれる。
「仕事の邪魔はしないんじゃないのか」
「何かネタをくれたら離してあげる」
「近々この国である行事は」
「大きな会議がひとつあるね」
「ならばそれで十分だろう」
「そんな当たり前の情報じゃなくて」
 強請るように見上げてくる視線,自分と同じように世界を飛び回るくせに白い肌,溜息をつくと,外交官はメモを一枚取り出し,ペンでホテルの名前と部屋番号を書き付ける。
「何の密談場所?」
「俺の宿泊先だ」
 一瞬,はぁ? と尋ねる雰囲気で顔をしかめたフリーライターが,腕の力を緩めた隙に脱出。ちょっと,と追い縋ろうとした言葉に,少しくらい反撃をしても誰も困るまい。
「来たら面白いネタがあるかも知れないな」
「外交官様の性癖とか?」
「さあ」
 振り返らないで歩き出す。たぶん向こうから見える黒いコートの背中に,ばっかじゃないの,という罵倒が聞こえたのは聞こえないふり。リアクションをしなくてもカフェの中で冷やかしの口笛が上がる。
 そうここは,自国ではなくて,仕事先。

無論映画にこんなシーンはありません

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